081483 ランダム
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ギロホリック

Sweet jealousy

学校の帰り道、いつものスーパーで買い物を済ませた夏美は重い袋を下げな

がら、でも足取りはとても軽かった。「うふふ。お肉、いつもより奮発しち

ゃった。」今日の献立はみんなの大好きなビーフシチュー、ミモザサラダ

それから・・デザートにバニラアイス。「あいつは甘いの苦手だから、食べ

るときにエスプレッソをかけたげようかな。」自然と口元がほころんでしま

う。
 

 夏美は今朝のことを思い出していた。家を出ようとする夏美にギロロが

「落ち葉が邪魔でかなわん。焚き火をするから、何なら芋をやいてやっても

いいぞ」と言ってきた。

ほんとに素直じゃないんだから。「焼き芋作って待ってるから、早く帰って

来いよ」とか言えばいいのに・・。そう思いながら歩いていたら、すれ違う

おばちゃんに怪訝そうな顔で見られた。どうやらニヤついていたらしい。

慌てて小走りで家路を急ぐ。角を曲がればもう我が家だ。ーと焚き火のにお

いがしてきた。


門を入ると玄関には行かず、夏美はそのまま庭に回った。

見慣れた小ぶりの赤い背中・・・。ちょっと脅かしてやろう・・そう思った

夏美はわざと声をかけず、そろりそろりと近づいていった。

もうあと数歩のところで「こらこらくすぐったいぞ」ギロロの声がした。

え?まだ何も・・・と思ったときギロロのひざの辺りに白い尻尾が見えた。

ギロロが首を傾けたので横顔が見て取れる。・・・・うそ・・・・・


ギロロが笑っている。夏美が見たこともない穏やかな顔で猫をかまってい

る。

「た・だ・い・ま!」必要以上に大きな声だった。

飛びのいた猫に負けないくらいギロロも飛び上がった。

「背中を取られるなんて、軍人としてまだまだってことかしら?」「な、

な、な、夏美!」あまりに驚いたギロロは、夏美の言葉に棘があるのに気付

かない。

「ふ、ふん。火に気を取られていて、たまたまだ。」「あら。とっても楽し

そうに見えましたけど」ちらりと横目で見ると、猫は背中の毛を立て、前足

を突っ張って夏美を見据えている。

ますます面白くない。重いスーパーの袋をどさりと置くと腕組をしてこう言

った。

「あんた、笑えるのねえ。そのための神経だけ欠落してるのかと思ってた。

ちょっともう一度笑って見せてよ。」

「き、貴様、何を言っている?」

「笑いなさいよ。だめなら力づくで笑わしてやる!」

夏美がそういってギロロの顔に手を伸ばしたときだった。

何かが自分に向かって飛んでくるのが視野に入った。猫だ・・。鋭い爪、金

色の目・・思わず顔を手でかばい、ぎゅっと目をつぶった。

と、その瞬間、鋭い風が顔をなで、「ぎゃっ」と悲鳴が聞こえた。

ゆっくり目を開けると横倒しになった猫が慌てて立ち上がるところだった。

「貴様・・!」ギロロが険しい目つきで猫をにらみつける。猫は何か言いた

げにギロロの方へ一歩踏み出したが、思い直したように「みゃ~」と哀れな

声で鳴いてから庭を横切り消えてしまった。

あの子、あたしがギロロを傷つけると思ったの?だから?ギロロのこと本当

に好きなんだね。でも私だってコイツのこと・・・。ごめんね。猫ちゃん。

「夏美!大丈夫か?」ハッと我にかえり、小柄な赤い宇宙人に向き直った。

「あたしはだいじょ・・」言いかけて気付いた。ギロロの右手から血が落ち

ている。

「ギロロ!怪我してる!!」「ふん、たいしたことはない。」

しゃがんで鞄からハンカチを探したが、こういうときに限ってすぐに見つか

らない。

「とりあえず消毒!」そういってギロロの右手をつかみ、一番傷の深い人差

し指を口にくわえた。

「!!!!」

あまりに突然でギロロは声も出ない。ただあごが外れたように口が開き、見

る見るうちに沸騰し始めた。

「ふふ・・血と火薬の味・・」

ギロロの指をくわえたまま、上目遣いでそう言うと今では聞きなれた

「ぶしゅっ」という鈍い音がしてゆっくりギロロが倒れこんできた。

いけない!またやっちゃった。ギロロを抱え、ブロックに腰を下ろし、手の

ひらで顔に風を当てる。


ギロロ・・笑った顔は当分我慢するよ。だってこんな風になっちゃうのは、

あたしが特別だからだよね?今はそれで十分・・・。

少し風が出てきた。

カサカサいう音で、スーパーの袋を置きっぱなしにしてたのを思い出した。

アイス、溶けちゃったな・・。

火の消えた焚き火の中には焼き芋がまだあるはずだ。

皮をむいた焼き芋と、溶けたアイスをミキサーで混ぜてもう一度固めたら?

少しシナモンも入れちゃおう・・。

愛しい人が目を覚ますまで、この新しいデザートの名前でも考えていよう、

と思う夏美だった。



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